デス・オーバチュア
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「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! 死……ああん?」 六つの火炎魔法陣から巨大火球を途切れることなく撃ちだし続けていたフレアが、異変に気づきその手を止めた。 際限なく蹂躙範囲を広げていた爆炎が急速にその範囲を狭めだし、横ではなく上へ上へと燃え上がっていく。 遂に爆炎は、天を突き刺すかのような一つの超巨大火柱と化した。 『……ァァァァ……』 燃え上がる炎の轟音に混じって微かに聞こえてくる異音。 異音は、超巨大火柱の根本に浮かび上がった小さな人影からのものだった。 『ァァァァ……ァァアアアアアアアアアアアアアアッ!』 火柱は揺らぎ、荒れ狂い、巨大な一匹の『火龍(かりゅう)』と化す。 「ああぁっ!?」 天空から火龍の頭が降下し、フレアを呑み込むとそのまま地上へと激突した。 地上に激突した火竜は、爆炎として地上を灼き払いながら全方位に拡散し消えていく。 「……ハァ……ハァァ……フゥ……」 元々火柱が立ち上っていた場所に、皇牙が大地に両手をついて呼吸を荒立てていた。 大地についた両手は振るえており、今にも倒れ込みそうな程に皇牙は消耗しきっている。 「……や……やっぱコレは……自分で使うものじゃないわね……」 乱れきった呼吸を整えながら、皇牙は自分自身以外には意味不明なことを口にした。 「……皇鱗……『盾』だけならともかく……け……んんんっ!?」 シャッシャッといった空気を素早く掻くような音がした直後、背中に……凄まじい光と熱を感じる。 実際、皇牙は上空から烈しく照らされていた。 皇牙が上を向くと、太陽のように烈しい青光が視界を埋め尽くす。 「天魔烈煌弾(てんまれっこうだん)!!!」 「な、奴……」 超々巨大(皇牙の百倍以上の大きさ)な青い光弾が地上へと放たれた。 天魔烈煌弾は皇牙を押し潰すようにして地上へと到達し、青煌の大爆発を巻き起こす。 「油断大敵だよ。特にあなたみたいに敵が多い存在はね……」 青煌の荒れ狂う地上の上に黒い鳥……いや、黒い翼を羽ばたかせた天使がいた。 黒髪黒目、額に『星の煌めく天空の破片(ラピスラズリ)』を持つ天魔族……瑠璃である。 だが、その姿形は以前とかなり変わっていた。 十歳にも満たなく見えたちっちゃかった体は、十五歳ぐらいの少女の体格へと成長を遂げている。 漆黒のボブカットは膝辺りまで伸び、先端を群青色の大きなリボンで一つに束ねられて、まるで一本の『尻尾』のようだ。 胸だけを覆い隠すビスチェ、膝丈のスリットスカート、大きな肩当て、指ぬきの手甲、膝までの具足……身に纏う全ての装備が彼女の髪と瞳と同じ見事な漆黒をしている。 さらに、彼女の背中には漆黒の双翼が、髪に隠された両耳の上辺りからも小さな翼がそれぞれ生えていた。 「……奴隷種……の分際で……」 青煌の大爆発が治まり、皇牙の姿が浮かび上がる。 「なるほどね……『ソレ』でさっきの爆炎も跳ね返したわけだ?」 「ふ……ふん……半分正解……かしらね……」 皇牙は、自らの体を覆い隠すように巨大な漆黒の盾を構えていた。 巨大な盾は鋭角的で、まるで竜の顔のようなデザインをしている。 「竜鱗(りゅうりん)の盾?」 瑠璃は両手を突きだすと、円を描くように両手で空を掻いた。 直後、両手の間に烈しく発光する青い光弾が生まれる。 「天魔烈光弾(てんまれっこうだん)!」 解き放たれた青き光弾は、瑠璃の十倍ぐらいの大きさに膨張し、皇牙の姿を呑み込んで青煌の爆発を起こした。 「ふむ……」 爆発が晴れると、先程とまるで変わらない格好の皇牙が姿を見せる。 「……気は済んだ? これが宇宙最強の盾よ……」 光弾の破壊力は全て盾によって遮断されたようだが、盾の向こうの皇牙はなぜか著しく消耗しているようだった。 「ただの竜鱗の盾じゃないか……恐ろしく密度の高い鱗? いや、と言うより……」 「邪魔だっ!」 「くっ!?」 瑠璃は思考を中断し、真横へ滑空する。 彼女の真横……先程まで滞空していた空間を巨大な旋風(螺旋状の風)が駆け抜けていった。 「そいつは俺の獲物だ……退いてろ、化け物その2」 地上から旋風を放ったのは、銀髪の青年ガイ・リフレインである。 「その2って……」 瑠璃は、一緒にされたくないといった感じの顔をした。 「まさか……姉さんの情熱(パトス)に抗えるモノがあるとは思いませんでしたわ」 「ちぃぃ……」 皇牙が苦しげな表情で舌打ちする。 彼女を挟んでガイと反対側に、赤毛の女性が佇んでいた。 跳ね返された爆炎に消えたフレアではなく、妹のフレイアの方である。 「くぅぅ……次から次へと……この……」 皇牙は口に出しかけた言葉を呑み込んだ。 連戦や一対多数の不利を口にするなんて情けないことはできない。 人間(雑種)など何百何千……いや、何億いようと異界竜(自分)の『敵』ではないのだ。 「……そうでなければいけないのよ……!」 漆黒の巨盾が普通サイズに縮小し、皇牙の左手に装着される。 「アアアアアアアアアッ! ハアアアアアアアアアアアアアアアッ!」 皇牙は全身から青い光を爆発的に放射すると、弾けるように空へと飛び上がった。 「うっ!?」 「奴隷風情があああっ!」 一瞬で瑠璃の目前に迫ると、青く輝く右拳で彼女の左頬を殴りつける。 「つっ……まだそんな力が……」 瑠璃は吹き飛ばされながらも、両手で虚空に円を描く動作を繰り返した。 両手の間に青い光弾が形成され、輝きを増しながら膨張していく。 「天魔……烈皇弾んんんんっっ!!!!」 手元から撃ちだされた光弾は物凄い勢いで膨張を続け、皇牙の前に迫った時には彼女の千倍の大きさにまで膨らんでいた。 「ちいいぃぃっ!」 皇牙は盾を装備した左手をかざす。 次の瞬間、天魔烈皇弾が破裂し、空を埋め尽くすような青煌の爆発が皇牙を呑み込んだ。 天魔烈『コウ』弾。 光→煌→皇の順に威力が増していき、それぞれがアンブレラのメガ・グラビトロン→ギガ・グラビトロン→テラ・グラビトロン級の破壊力を有していた。 無論、重力弾であるグラビトロンと、純粋な闘気(破壊エネルギー)の塊である光弾ではその性質は大きく異なり、まったく同等な威力というわけではない。 あくまで大まかな力のクラスや次元が同じということだ。 例えるなら、一発で消滅させられる対象が、島(光、メガ)→大陸(煌、ギガ)→地上(皇、テラ)といった具合である。 「……『個』を倒すには過ぎた力……あまり適切とは言えませんわね」 フレイアは天魔烈皇弾をそう評した。 「……ああ言った爆発力だけはある闘気弾の類は一対多数……雑魚をまとめて吹き飛ばす時に使うものだ……」 そう言って、ガイも同意する。 「……ハァ……ハァハァァ……」 青煌の空から通常に戻った夜空に、皇牙が浮いていた。 彼女は肉体的ダメージ、損傷こそ増えていないが、酷く衰弱しきっており、今にも空から落ちてきそうな程ふらついている。 「……クゥッ……『回復』さえできれば……あんた達なんかまとめて倒せるのに……」 皇牙はこのまま戦闘を続ければ自分がどうなるのかよく解っていた。 おそらく、負けないまま『自滅』する。 彼女の漆黒(最強)の盾は敵の全ての攻撃を遮断するが、維持するだけでも大量のエナジー……生命力そのものを物凄い勢いで消費し続けていた。 「ふう……凄いね、その盾。全開で撃った烈皇弾に耐えるなんて……」 瑠璃は軽く乱れた呼吸を整えている。 彼女の方もさっきの一撃でかなりのエナジーを消耗したようだった。 「こうなったら……今の瑠璃の使える最大の技で……打ち抜かせてもらうね!」 「なんだとっ……」 冗談ではない、これ以上闘気弾の威力を上げられた地上どころか、この世界そのもの……『時空』が吹き飛びかねない。 「右手に闇、左手に静寂……」 「うっ?」 皇牙の予想に反して、瑠璃は自然体に構えると、右手を黒く、左手を白く、光り輝かせた。 「我が前に破壊……」 対極の輝きを放つ両手を前に持ってくると、強く握り合わせる。 「後ろには死…」 白光と黒光が混じり合い、烈しく荒れ狂う銀光が生まれた。 「神魔融合の力!? そんなもの与えて無……」 「天魔!」 「ちっ!」 皇牙の左手から盾が飛び出し、巨大化して彼女の姿を覆い隠す。 「無双拳(むそうけん)!!!!!」 瑠璃の両手の銀光が瞬間的に爆発的に高まり、銀色の『閃光』と化した。 「があっ!?」 銀色の閃光に一瞬奪われた視界が回復すると、漆黒の巨盾は粉々に砕け散っている。 それだけではない、皇牙の腹部にも巨大な風穴が空いていた。 「天魔の力に並ぶものなし……」 瑠璃は皇牙の風穴の向こう側……地上に立っている。 彼女は銀光の両拳で、皇牙の胴体を貫いて通過していたのだ。 「な……なん……え……?」 皇牙は自分に何が起きたのかまだ解っていなかった。 「事実を受け入れることなく逝くといい……」 上空……ゆっくりと地上へ落下してくる皇牙に瑠璃が視線を向けると、額の宝石(ラピスラズリ)が光り輝く。 「天破煌(てんはこう)!」 宝石から爆流のごとき青煌が放たれ、皇牙の姿を一瞬で呑み込んだ。 「ふううぅぅ……まあ、あそこまでダメージを与えた後ならコレでも充分トドメを刺せるはず……」 瑠璃は疲労を体外へ吐き出すかのように大きく息を吐く。 「光と闇、神と魔……対極の力を反発融合させた力か……理論はありきたりだが、実際に使う奴、使える奴は初めて見た……」 一連の成り行きを眺めていたガイが口を開いた。 「そうだね、あんな技を使うのはどこぞの魔王ぐらいだよ」 いつの間にか、剣から人型に戻っていたアルテミスがそんなことを言う。 「基本的にああいった技は神属と魔属の混血でもない限り使えないはずだし……」 「混血か……」 「うん、どちらでもありどちらでもないモノ、間の者だけの特権だね。純粋な強い魔属や神属程使えない……というか使うのが危険な禁断の力……」 「禁断か……それ程の力とは思えないがな」 ガイは嘲笑するような微笑を浮かべた。 「まあ、ガイにとっては大した驚異じゃないけどね」 アルテミスはガイの自信(瑠璃に対する見下し)を肯定するように微笑う。 「俺にはお前が居る……それに……アレでは問題外だ」 瑠璃の致命的な欠点、弱点をガイは見抜いていた。 皇牙にしろ瑠璃にしろ化け物達はガイより遙かにパワーや身体能力は上である。 だが、ディーンやサウザンドのように『強い』とは、勝てないとは欠片も思わなかった。 「どれだけのパワーやエナジーがあろうとあいつらは素人……いや、『獣』に過ぎない……『人』は獣よりも強い……』 ガイにとって驚異なのは、自分以上に技を極めた人間だけである。 「だから、あんな化け物共よりあっちの方が余程興味がある……」 そう言って、ガイが視線を向けたのはフレイアだった。 「……ん、ガイさん?」 自分を見つめる視線に気づいたのか、フレイアは空に向けていた視線をガイへと移した。 「不完全燃焼でな……お前でも、もう一人のお前でもどちらでもいいから相手をしてくれないか……?」 ガイは挑発するように微笑う。 「……残念ですが、私(わたくし)には主より言いつかった使命がありますので……早くタナトス様とクロスティーナ様を見つけなければ……」 「タナトスにクロスティーナ? その二人なら知っている……」 「えっ、本当ですか!?」 予想外なガイの発言に、フレイアが食いついた。 「あの今どこに居るのかご存知でしたら教……」 「ああ、教えてやる……ただし、俺に勝てたらな……と言ったらどうする?」 ガイは意地の悪い笑みを浮かべる。 「……無用な争いは好みませんが……そう言ったことなら仕方ないですわね……」 フレイアは目を細め、中指に赤い鈴を絡めた左手を構えた。 「はっ、良く言うぜ……お前も俺とやってみたかったんだろう? 好戦的なくせに理由を必要とするとは面倒な奴だ……」 「失礼な、好戦的なのは姉さんだけです……」 否定こそするが、楽しげな笑みを浮かべた口元がそれを裏切っている。 実はフレイアも武人として、ガイとは初めて会った時から勝負してみたいと思っていた。 しかし、フレイアはエランの許し無く姿を現すことも、任務よりも個人的な興味や楽しみを優先することも許されていない。 だから、初めて会った時は姿を見せなかったし、今回も任務を優先してこの場から立ち去ろうとした。 「任務を遂行するために回避不可能な戦闘……仕方ないので全力で御相手させていただきますわ!」 「ふん、仕方なくか……まあ、俺の欲求不満を解消してくれるなら何でもいいさ……アルテミス!」 「鳴鈴(メイリン)!」 ガイの横にいたアルテミスが一瞬で青銀色の幅広い剣に、フレイアの左手の赤い鈴が真赤の薙刀へと転じる。 そして、轟音を響かせて、月光を放つ剣と炎を纏った薙刀が激しくぶつかり合った。 「好戦的な生き物ね、人間って……」 元のちっちゃな姿形に戻った瑠璃は、黒いスウェットジップアップパーカのフードを深く被り直す。 「ふうう……さっさと退散しないと……」 瑠璃は呼吸が荒く、かなり疲れているようだった。 少し遠くで、轟音や爆音し、爆風や衝撃波がここまで届く。 おそらく、ガイとフレイアが斬り合うだけで巻き起こしている現象だ。 「瑠璃なんて眼中外か……まあ、お陰で助かったけどね」 人間(下等種族)に無視されても、瑠璃は皇牙のようにプライドが傷ついたりはしない。 寧ろ、下手に興味を持たれて戦闘を挑まれたりしたら迷惑なだけだ。 「瑠璃様〜」 オリーブグリーンの髪と瞳をした少女がこちらに駈けてくる。 深緑の変形(スリットの入ったビスチェ型のワンピース、フリルエプロン、黒帯)メイド服を着たエルフ型の機械人形ベリドットだ。 「ベリドット……後ろ!」 「はい?」 駈けてくるベリドットの背後に突然、コクマ・ラツィエルが出現し迷わずトゥールフレイムで彼女の首を刎ねようとする。 「前へ跳べ、ベリドット!」 「は、はい!」 「つっ!」 声に命じられるままにベリドットが前へ跳んだ瞬間、コクマは反対に後へ跳び離れた。 二人の間……先程まで二人が居た場所へ無数の剣の豪雨が降り注ぐ。 「問答無用でいきなり殺そうとするとは……相変わらずエルフが死ぬほど嫌いみたいだね……それとも嫌いなのは機械人形かな?」 「両方ですよ。私はエルフの機械人形などという最悪な『物』は一秒たりともこの世に存在することを許せない……ただそれだけです」 コクマの前に姿を現したのは、黒髪の少年ノワールだった。 「ノワール様!」 「僕の後にいろ、ベリドット」 ノワールは、ベリドットをコクマの視界から隠すように前へ出る。 そして、実の兄に憎悪と嫌悪の籠もった眼差しを向けた。 「嫌いなものはこの世に存在することも許さないか……本当に相変わらずでね、ルヴィーラ兄上……」 「あなたも相変わらず……いや、より女々しく悪趣味になりましたか、ノワール?」 コクマは瑠璃、ベリドットを順に目視した後、意地悪げな笑みを浮かべる。 「女々しく天魔族に執着するばかりか……この世で一番最悪なものと二番目に最悪なものが合わさった物まで傍に置くとは……」 「兄上には最悪がいくつもあるらしい……ちなみにエルフと機械人形、どちらが一番なのかな?」 ノワールはコクマの挑発に乗らず、軽口で返した。 「そうですね、どちらも同じぐらい最悪ですが……どちらかというと……」 言葉の途中でコクマの姿が消える。 「やはりエルフですかねっ!」 「えっ?」 瞬間移動のように一瞬でベリドットの前に移動すると、コクマはトゥールフレイムを振り下ろした。 「なるほどね……フローライトを連れてこなくて良かったよ……」 しかし、トゥールフレイムの刃は透明な何かに遮られて、ベリドットには届いていない。 「透明な剣ですか? それに今の動きも悪くありませんでしたよ」 「お褒めいただき光栄だよ」 トゥールフレイムを受け止めているのは、ノワールの持つ透明な剣だった。 「ベリドット、瑠璃の所まで……あ、あれ?」 自分の元にベリドットを呼び寄せようとした瑠璃の胸から、巨大な黒い刃が生えている。 「身体能力こそ化け物だが所詮は素人……隙がありすぎだ……」 「瑠璃!?」 「そして、それ以上に持久力(スタミナ)がまったくないのがお前の最大の欠点だ……ちゃんと栄養を摂っているか?」 「あううっ!?」 シャリト・ハ・シェオルは瑠璃を貫いている黒刃(右手)を九十度捻った。 「貴様あああっ!」 ノワールは眼前のコクマを無視して振り返ると、怒りに任せてシャリト・ハ・シェオルへと飛びかかる。 「ふん」 「うっ!」 シャリト・ハ・シェオルが右腕を強く振ると、黒刃から瑠璃がすっぽ抜けて空中のノワールへと叩きつけられた。 これが光線か光弾の類なら容易くかわすこともできた……だが、瑠璃を避けるわけにはいかない。 反射的にそう思い受け止めてしまったのだ。 「愚かな判断だ……その甘さが死を招く」 シャリト・ハ・シェオルの右手が元に戻っており、代わりに左手が銀色の巨大な砲身へと変じている。 「共に深淵へと沈むがいい!」 砲口の前に出現した燃え上がる五芒星を撃ち抜いて、爆発的な銀光がノワール達へ向けて解き放たれた。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |